若干24才の「道の駅かまえ」の駅長・早川光樹は、大の魚好きが高じて神奈川県から大分県佐伯市に移住してきた生粋の魚バカである。魚にまつわる好奇心は尽きる事がない。早川を通じて佐伯市の魚を知ることは、地元の生産者から直接話を聞くのとはまた別の趣があるだろう。新しい発見の喜びや驚きを共有できたり、追体験できる楽しさがあるのだ。今回は、彼のライフワークでもある蒲江のカンパチ専門養殖「親幸水産」への取材に同行した。早川の手記と共に、佐伯市が誇る漁業に少しでも触れる機会となれば嬉しい。
親幸水産の橋本さん
船が出港して、蒲江浦の港を抜けるとすぐ屋形島が見える。屋形島の手前の海には、整列された養殖筏がたくさん並んでいた。区画ごとに蒲江浦の業者がそれぞれの魚を育てているらしい。その一区画に親幸水産・橋本さんの生簀は並ぶ。そこには、カンパチしかいない。カンパチ専門の養殖業者である。
魚の養殖業界で、一つの魚種に絞って経営していくことは難しいとされている。どの魚種も、全国の水揚げ量など様々な外部環境の変化によって、取引相場の乱高下が起こるからだ。
そこで、多くの養殖業を営む会社では、複数の魚種を取り扱い、一つの魚種が厳しくても他でカバーして、安定した経営を行ったりする。
しかし、カンパチ専門養殖の橋本さんにはそれがない。カンパチ1本で勝負しているのだ。
橋本さん「うちは大量には作ってないし、カンパチだけでやってるので、相場が下がると正直厳しい時も多いですね。なので、少し高い値段でもうちを選んで買っていただける人に積極的に出しています。そんな人を裏切らない。良いカンパチを作るのが仕事です。それで負けたらうちは倒産ですね」。そう言って笑う広幸さんの言葉の端々からは「本当に選ばれるカンパチを作るんだ」という、そういう強い覚悟が滲んでいる。
カンパチについて
ブリ、ヒラマサ、カンパチの「ブリ御三家」の中では一番の高級魚として知られる。
定番の料理は刺し身。
カンパチの旬は夏と言われるが、ブリほど季節による身質の変化は多くないそう。
通年安定していることから、魚屋さん、飲食店さんで見かけることも多いのではないでしょうか。
夏のカンパチについて
橋本さん「夏は初日(水揚げしたその日)のやつを、四角くきるのが好きっすね」
早川「厚切りですか?」
橋本さん「かなり厚切りですね。うちは笑」「あとは小ネギをかけて、甘めのタレをかけて丼でたべたり」
早川「カンパチならでは食感が僕も好きです。勝手に思ってるんですが【脂、甘み、食感】のバランスが気持ちが良いほどにハマってる気がします」
冬のカンパチについて
橋本さん「冬はやっぱり寝かせて食べるのが好きですねー」
早川「確かに、冬の脂の甘みは去年もえぐかったです。寝かせる日数を重ねることに甘みが…」
早川「毎日どこまで寝かせて食べたら甘みが止まるのか試そうと思ってたら、先に刺し身にする身がなくなったので、わかりませんでした笑」
魚に厳しい漁師町における親幸水産のカンパチ
魚の世界では、天然魚至上主義とも言えるような風潮が一部ある。「天然魚が絶対美味しい」と半ば決めつけのように言われることも多い。この漁師町・蒲江でもそういう方にはたくさん出会ってきた。
確かに旬を追って穫れた良い状態の天然魚は、「君はなんでこんなに美味しいんだよ」と思わず口にしてしまうほど美味い。しかし、現在は養殖技術や餌質の向上、生産者の方のこだわりから、素晴らしい天然魚と同じように、本当に美味しい養殖魚も次々に登場してきている。また、人が管理することから【誰が、どのように育てて、出荷されるか】がわかりやすいため、安心感から積極的に養殖魚を手に取る人も少なくない。
「天然の魚が絶対美味い」と言うような蒲江の漁師さんでさえも、ここなら間違いないと薦めるのが親幸水産のカンパチだ。
written by 早川光樹:道の駅かまえの駅長を勤める神奈川県出身の24才。大学卒業後、「魚が好きだから」という理由だけで佐伯市に移住し、道の駅かまえの指定管理を取得。蒲江の魚を中心に日々勉強に励み、経営との両立を実現させる。
道の駅かまえ:HP(https://buri.fish)