今日も『佐伯のおいさん』をさがして

縁もゆかりもない田舎に引っ越して、見つけたのは『おいさん』だった。
「真っ当なものだけでは物足りない、気づいたら道をそれてしまう」私が見つけた小径。

なかむらかずみです。4年ほど前に大分県佐伯市というところに引っ越してきました。

それまでは1年間、軽バンで寝泊りしながら各地を転々としていました。

そんな生活の末にたどり着いたのが今の住処です。
なんとなく「この街いいなぁ」と思い、住んでいるうちにあっという間に4年が経ちました。

引っ越してきて3ヶ月くらいの頃、佐伯についてのフリーペーパーを発行し始めました。1人で、勝手に。
勝手に取材対象を見つけ
アポを取り
写真を撮りまくり
テープレコーダーで録音
家に帰って文字に起し
写真と文章を配置して
ひっそりとA3のコピー用紙に両面印刷をして(もちろん何度も印刷ミスを繰り返し)
刷り上がった500枚もの紙をただひたすらに4つ折りにして・・・
(更には題字を活版印刷で仕上げていました)
そしてできあがったのがこんなフリーペーパー。

ぺらっとしたコピー用紙に粗めの輪転機印刷

そう、『月刊 佐伯のおいさん』。 
『月刊 佐伯のおいさん』は、その名の通り毎月1人、佐伯のおいさん(おじさん)を紹介している無料月刊誌。
・・・誰も求めていないのに。
急に、思いついて始めた。
私が勝手に、独断で始めた。
そして急に、休刊し始めた・・・まま今に至る。
作業が大変なのである。
一人でするのに飽きたのである。かと言って、誰かに依頼するほどのことではない(人口減少が問題視されている昨今の日本では(しかもここは、比較的活気があるとはいえ過疎化が進む一地方)到底こんなことに人を巻き込めない)し、そもそも私には協調性がないので一人で「あ、作ろう」と思った時に作るくらいがちょうどいいのである。
(偉そうに「〜のである」とか言ってるけど、ただの言い訳です。次号を楽しみに待ってくれている皆さん、ごめんなさい) ※これが意外と人気で、毎月楽しみにしてくれている人がいたんです。とても嬉しい。

当時の私は《地域おこし協力隊》として働いていて、大分県佐伯市の『観光』にまつわる仕事をしていた。
この『月刊 佐伯のおいさん』の制作を業務の一部として認めてもらえないかと考えた。

”地域の人との交流”と称して取材をするなかむらと、たじろぎながらも優しく迎えてくれるおいさんと、その奥さん

《地域おこし協力隊》とは、人口密集の著しい都市部から、過疎化の進む地方に移住を希望する人が、市町村の職員として勤務しながら地域に溶け込み、地方の活性化を計る総務省の制度。
3年間の任期を終えたらその地域への定住を期待されているので、その地域での生活するための就職や起業をする準備期間として過ごすこともでき、昨今の田舎暮らしブームの一助となっている。

過疎地域の単なる人口増加だけではなく、都会の人が田舎に引っ越すことで生まれるお互いの価値観の刺激や、発想・事業の転換による新たな産業・雇用創出ができたり、協力隊の3年間の主な勤務先である役所への外からの風通し役として注目されている。

引用元:なかむらかずみ


と、協力隊の存在意義や業務目的をもっともらしく書いてみれば書いてみるほど、『佐伯のおいさん』の制作を業務として認めてもらうのは難しそうに思える。本当に思う。私が一番そう思う。わかってるってば。
でも佐伯に引っ越してきたばかりの当時の私は『佐伯市の観光』よりも、とにかく『佐伯で見かけるおじさん』に夢中で、そのおじさん達のことを知りたくて仕方なかった。

道端で挨拶を交わすおじさんも
田んぼを手入れするおじさんも
昼からマイボトルの焼酎で一杯やっているおじさんも
自転車でどこかへ向かうおじさんも
「俺たちの若ぇ頃は」と話すおじさんも
スナックでのど自慢するおじさんも
野良猫におやつをあげるおじさんも
「息子の嫁に怒られる」とぼやくおじさんも
どのおじさんのことも知りたくて、そのためには理由が必要でした。

業務として認めてもらうために、いや、まずおじさん達に話しかけるために当時の私は、

「これからの観光は、景勝地やグルメはもちろん、“ 人 ” に魅力を感じ、わざわざ会いに行きたくなるような ” 人 ” の情報発信をするべきです」的な
それっぽい企画書を書きました。

当時の企画書の一部。日付を見てびっくり。4月1日に着任して25日にはもう「おいさん」って言い始めていた。

なんと、いとも簡単に課内での同意を得られ、始めることができたのです。

いい町、佐伯。ね?

そんなこんなで始まった『月刊 佐伯のおいさん』。
まちで気になるおいさんを見かけたら、すかさず声をかけ
「月刊 佐伯のおいさんという冊子を作っておりまして。ええ、あの、はい、え?詐欺とかじゃないです。元気な佐伯の方を紹介しているのでよかったら取材させてもらえないかなって思いまして…ダメですか?あーそうですよね。息子さんにね、一度聞いてからね。あら、素敵なストラップですね(ストラップを携帯にまだつけている人がいるのか…!ていうかガラケー!すごい!)。」
なんて言いながら念のためテープレコーダーのスイッチを入れ、録音を始めるわけです。
そうすると、おいさんは「困るなぁ」とか言いながらも嬉しそうに身の上話を聞かせてくれたりするわけです。

団塊の世代と呼ばれ、今より個性なんて重要視されていなかった時代に育ったおいさん達。
だけど、一人一人にスポットライトをあて、おいさん達の話を文字に起こしていると、そこには教科書に載っていない、歴史やその時代の文化がしっかりと刻まれているのです。

そういう口伝でしか聞けない歴史のことを専門用語で『オーラルヒストリー』というらしいです。

横文字を使うと『それっぽさ』出ますね。
長々と書きましたが、要するに、私のしていることは「立ち話もアレなんで、紙面に残しておきますね」という感じのことです。

今日も私は『佐伯のおいさん』を探しに街に出ます。
その様子を綴っていこうと思います。

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