見えないものが見えたなら〜前代未聞のレコ発ライブ前編

2022年2月22日、この日22時22分22秒には800年に一度の2のゾロ目がこんなに揃う日だったらしい。
その瞬間何をしていたかと言うと、何もしていなかった。
なぜかと言うと、その2022年2月22日22時22分22秒より遡ること約3時間半前に800年に一度なんて目じゃない、この地球が再び爆発するまでにもう二度とないようなことがあったので、ただ『2』がいっぱい揃う日なんかめちゃくちゃどうでもよかったからだ。 

そんな日のこと、記憶に残しておきたいなと思い、今ポチポチとキーボードを打っています。
『ラウンジサウン〜サイキシミン「人間」レコ発!』(以下レコ発)のことだ。

2021年11月11日、セカンドアルバム「人間」をリリースした時にボギーさんから「ラウンジサウンズでレコ発やろう!」と言ってもらえた。
2022年1月25日に決まっていたはずのレコ発は、言わずもがなオミクロン株の大流行で延期せざるを得なかった。延期後の日程は2月22日に決まった。
2月22日が近づいても感染は落ち着く気配がなく、むしろ猛スピードで感染者数を増加させていった。福岡にも大分にもいわゆる『マンボウ』というのが出た。
ボギーさん家族もコロナに罹ったらしい。長い時間かかったようだが、全快して良かった。

その頃俺は悩んでいた。
ライブの告知をしてもいいのだろうか。
このライブの告知は誰に来てほしくてするのだろうか。
来て欲しい人はたくさんいるけど、今バカみたいな顔でも深刻な顔でも「ライブを見に来てください」というのは本当に正しいことなのだろうか。
と、悩みに悩んでいてライブの告知ができなかったのだ。

でも自分達のレコ発の告知をしないなんてことはあり得ない。
だから今の気持ちを正直に告知に書いた。
『今のサイキシミンの告知は”ライブができますように”という願いです』と。

 無事にコロナが落ち着いてライブできるようになりますように。

ところが福岡も大分も感染者数が落ち着く気配はなく、2月中旬がピークかと言うくらい感染者が増えていった。
これはやばいなと日々インターネットで感染状況を見つめていた。
もしかしたら2月22日のレコ発も延期になるかもと思い、あらかじめサイキシミンのメンバーに延長か時間短縮でレコ発をやるか、それぞれどう思うか聞いた。
自分も含めて全員「時間短縮でなく、ちゃんとライブができるまで待つ」との結論になった。
そして福岡の『マンボウ』の延長が決まった。

ボギーさんから「レコ発どうしようか?」と連絡。
俺は「メンバーで話した結果、万全の体制でできるまで待ちたいです」と伝えた。
ボギーさんから「俺もそう思うよ」と返ってくるだろうと思ったら、「対バンはみんな出れそうだし時間短縮でやろうと思う」と伝えられた。
延期にすることで会場であるブードゥーラウンジのスケジュールにも穴が空いてしまい、そこで働く人にも影響してしまうので、できる範囲でやっていきたいとの考えだった。
状況は刻一刻と変わっている。1ヶ月前の延期の判断が今回にも当てはまるわけではなかった。

俺は自分のことしか考えていないことが恥ずかしかった。申し訳なかった。
「この状況でサイキシミンが出れるかどうかわからんけど、出るかどうかは任せるよ」と言われ、「もう一度メンバーと話してみます」と返事をした。
 返事をした直後に俺はもっと恥ずかしいことに気づいた。
それは、”延期になってくれたら色々悩まずにすむのにな”という考えがどこかにあったことだ。
ダサい。
ダサすぎるぞ俺。
悩むことをめんどくさいと感じてしまうのなら、バンドなんかやめてしまった方がいい。

出るか出ないか。
「サイキシミンなら出る一択でしょ」と自分でも思うが、今回はそんなにスムーズに気持ちを決められなかった。 
感染者数だけで見れば福岡市は佐伯の100倍以上になる。
もしライブに出て感染してしまったら、もし自分が感染を広げてしまったら、自分が広げた感染で誰かが亡くなってしまったら、自分が広げた感染で家族に何かがあったら…。
可能性の話でしかないけれど、そんな不安がグルグルと頭を巡っていた。
けれど、福岡市では当たり前に生活している人がいて、できる範囲でライブをしているミュージシャン達がいる。逆境に負けずラウンジサウンズを続けているボギーさんがいる。
そう考えると、可能性だけで悩んでいるくらいなら行くべきだと思うけど、その思い切りがその時の自分には持てなかった。
福岡と佐伯は一本の道で繋がっている。なのに。
悔しい。

サイキシミンのメンバーにもLINEでボギーさんとのやり取りを伝えた。
最初に返信があったのが赤フン山岡だった。
「行くか!サイキシミンのためにスケジュールを組んでくれたみんながやるなら!」
他のメンバーも概ねそんな感じの中、俺も「そうよな!よし、行こう!行ける!」と思い始め、ボギーさんに「サイキシミン行きます!」と連絡した。 

行くと決めたものの、次の日から「よし!行ける!」と思ってみては、「家族に何て説明していこうか。もう黙っていくか嘘ついていくしかないやんか。いやでも本当に行けるか、それで…」と悩んでみたり。
やっぱり「嘘ついてでも行こう!日帰りで行けばバレんやろ!」と思っては、「でもバレるかどうかが問題ではないやん、俺のアホ…」と落ち込んでみたり。
四六時中「行く!」と「行けるか?」が頭の中で押し問答を繰り広げていた。
そして、福岡行きが決まっている事実がある中、気持ちが全く追いついてこないまま、ライブ前最後のスタジオ練習を迎えた。 

練習時、当然ライブの話になったが、みんな大体同じようなことをこの数日考えていたようだ。
みんなで話して今回ライブに出ることで、無事に感染もせず終わったとしても、家庭や生活、仕事も終わってしまう可能性があったり、二度とライブができなくなってしまったりそういう危険性も孕んでいることもわかった。
ロックンロールは破壊的な要素ばかり言われることが多いけど、愛する人を大切にすることもロックンロールだと思う。
長い沈黙が続いたけど、もう答えは出ていた。
それでも俺は自分から「行くのは止めよう!」がどうしても言い出せなかった。
 何故かはわからないけど、喉のすぐそこまで出てきているけど、言い出せなかった。
すると一時してひかるくんが「やめましょう」と言ってくれた。
みんな「そうやな」と返答した。
ひかるくんに言わせてしまった。俺の方が年上で、俺がリーダーなのに。
申し訳なかった。 

その場でボギーさんに電話して、出演キャンセルのお詫びの連絡をした。
すると「しょうがいないね。」と言ってくれた。
さらに「でもさー、やっぱ主役がおらんと寂しいけんリモートライブで出演してよ」と言ってくれた。
俺にはこの時までにリモートライブという選択肢は全く頭になかった。
この日までとてもシリアスに出演について考え続けていたからというのもあるし、レコ発ライブの主役という立場から、キャンセルしておいてそんなふざけた演出をして許されるとは思えなかったからだ。
「こいつらふざけやがってってみんな怒りませんかね?」とボギーさんに言ったら、「サイキシミンがふざけたバンドってみんな知ってるから大丈夫よ(笑)」と。
ボギーさんのこういう言葉に今まで何度救われてきただろうか。
もし生まれ変わったら俺はボギーさんの奥さんになろう。毎晩毎晩美味しい料理を作って、寝る前には全身をマッサージしてあげて疲れた体をほぐしてあげて、たくさんハグとキスをして精一杯の愛情表現をしてボギーさんが幸せそうに逝くのを看取ろう。今度は俺が幸せにします!ボギーさん、来世をお楽しみに!
いやしかし、前々からボギーさんの逆境を武器に変える強さに憧れて、サイキシミンもそういうことをやり続けてきたが、まさか「主役のいないレコ発ライブ」という前代未聞の逆境をも楽しもうとするボギーさんの逆境魂には改めて度肝を抜かれた。

ボギーさんとの電話を切ったあと、何故かモリモリと力が湧いてきた。
ちょうどスタジオ練習に遊びにきてくれていたTMOVE工藤くんにすぐさま映像を撮ってもらうことをお願いした。そして、思いつきで佐伯市で一番でかい1000人規模の『さいき城山桜ホール』の大ホールを予約した。 ホールの受付の人は使用用途を聞いて苦笑いをしていた。
このスタジオ練習の日が2月17日、木曜日。
撮影は土曜日に行うことになった。

余談になるけど、赤フン山岡はみんなでライブキャンセルの話をしている時に「しまったなー。俺なんも考えんで勢いだけで行こうやって言ったわー。もうちょっと考えればよかったなー」と言っていた。
これだけ他の3人が悩む中、何も考えてなかった赤フンを俺はやっぱり本物のバカだと思う。
でもあの「行くか!」が全員の本心であり望んでいた結末だと思う。叶わなかったけど。
「何も考えていない人」と「色んなことをよく考えて物事をすすめる人」が最終的に行き着くのは同じ場所なのかも知れないな、と思った。 

2月18日金曜日。さいき城山桜ホールのスタッフさんと緊急打ち合わせ。
なんとホールは5日前までに予約しないと借りれない規則になっているとのこと。
一瞬みんなどうしよう?という雰囲気になったが、赤フンが「5日前に申し込みしたってことにすればいいんじゃないすかね?」とか言ってて 恥ずかしかったけど「おおいいぞ、さすが本物のバカ!」と思った。
結果的に「小ホールならなんとか…」と言ってくれて、1000人規模から300人規模と小さくなったけど場所は正式に確保!
併せて撮影を手伝ってくれる友達に依頼の電話。
魔界フェスでお馴染みcoffee5の豪くん、『人間』のジャケット写真を撮ってくれたJ(ジェイ)、工藤くんの相棒こと勇ちゃんの3人が手伝ってくれることになった。
俺の「明日の夜空いてる?」という不躾な電話にも関わらず、「いいやん、やろうや」と言ってくれる最高の友達。
俺たちは本当に幸せ者だ。 

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