「LE PANDA HOUSE」の建築設計に寄せて
建築家の仕事とは、ひとことでいうなら「場所」をつくることだと考えています。デザインをして図面を作成することは、仕事のほんの一部にすぎません。場所という言葉は、空間、その空間で過ごす人間、そしてそこに流れる時間、すべてが統合されたオーラをもった場です。商品化住宅のようにたくさん商品を集めても「場所」は絶対に生まれません。商品の集まりは商品でしかなく、完成した瞬間から劣化していく存在です。つまり消費されてしまうものです。最後はゴミとなってしまうものです。
しかし本来人間がそこで生活し、つつまれる環境というものは消費されるべきものではなく、空間に経験という時間の染み込んだ「場所」、かけがえのない居「場所」であるべきです。そのかけがえのない「場所」をつくることは建築家にしかできないことであり、それが唯一の建築家の存在意義だと私は考えます。
今回設計したルンビニこども園のル・パンダ・ハウスの設計について少し説明いたしますと、ゴシック建築の様式を採用したというところがまず特徴です。日本で暮らしているとゴシック建築っていう様式は普通はあまり馴染みはないと思うんですけれど、ヨーロッパの都市に行くと、例えば、パリのノートルダム寺院とかもそうなんですが、ゴシック建築って、街の目立つ場所にある建物なんです。「フライングバットレス」という構造を使うことで真ん中に大きい空間を作ることができるという特徴があるんですけれど、このル・パンダ・ハウスの場合は、その「バットレス」にあたるところにカフェと住宅があって、ホールの広い空間を支える役目も果たしている、という原理を使って作っています。
建設現場を上空から。正面を上に見て、向かって左手がカフェに、右手が住宅になった。
カフェ「ル・パン・パラソル」
もう一つ設計段階で考えたのは、ちょうど佐伯に降りてくるバイパスの入り口に当たる場所なので、そこからアイキャッチになるように、正面に壁画をもってくるということと、ちょっと正面の形が印象に残るように建物の外観をデザインするということを考えました。そして、その正面の場所に昔で言う神社とかお寺の庇の下みたいなちょっと溜まれる場所を作る、というようなことも考えて全体の設計をまとめてみました。
人間には「経験」とか「体験」っていうものは本当に大切なことで、それが人間を育てるんだと思うんですけれど、ル・パンダ・ハウスの場合は、簡単に言うと「時間による変化」みたいなものをどうやって取り込むか、ということを考えて、天井部分には梁を並べて、上部の方に窓を広くとりました。この効果で、内部から見る空はいつもと違った印象で見えたり、時間帯によって、入ってくる光が変化するので、建物自体はシンプルで単純なんですけど、中にいる経験としては、森に近いような感じで、光の変化を、すごく感じられるものになったと思います。ここでの体験が子どもたちにも印象に残ってくれたら良いなあというようなことを考えて設計しました。
鈴木謙介建築設計事務所
建築家 鈴木謙介
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