「おいしい」のために生きているわたしの、日々の中で印象に残ったもの・ことの記し
– 共同キッチン付き素泊まりゲストハウスで作る、季節のごはん –
夏から秋にかけての、屋形島ごはんについては前編で記したのですが、季節は流れて、今度は冬の屋形島でのごはんのこと。
2月のある日、友人と2人で屋形島へ行こうという話になった。目的は、ゆっくりおしゃべりをすることと、一緒にスパイスカレーを作ること。
島へ行く前に、ごはんは何を作ろうかと話していたとき、「緋扇貝でスパイスカレーを作ったら美味しそう」と彼女が言った。自分1人で献立を考えるときには、出てこないであろう料理名が新鮮で、何より、想像しただけですごく美味しそうだったので、メインは緋扇貝のスパイスカレーに即決。
それまで私は、スパイスカレーを作ったことがなかった。というより、作ろうと思ったことがなかった。無意識に和食派になっていて、たまに背伸びをして洋食を作ることもあるけど…だから、“スパイスカレー”という選択肢がなかった。副菜には、友人おすすめのアチャール(インドのお漬物の一種で、スパイスカレーに添えるものの定番らしい)、私のリクエストの生春巻きとはっさくのサラダを作ることにした。
スパイスカレーに使う数種類のスパイスは、友人が家から持ってきてくれた。コリアンダーに、カルダモン…名前は知っていても使うのはきっと初めてなものばかり。彼女に教わりながらの、スパイスカレー作り。
誰かと一緒にキッチンに立つことは、それだけでも楽しくて、新しい発見がたくさんある。
夕食ができあがり、緋扇貝の生産者でもあるゲストハウスの後藤さんも一緒に、3人で食卓を囲んだ。スパイスカレーと緋扇貝の相性は抜群で、冬の時期ならではのぶりんとした身は、煮込んでもなお存在感があり、言うまでもなく美味しかった。初めて食べるアチャールも、スパイスと酸味が効いていて、とても美味しかった。
翌朝は、友人が持ってきてくれた魚の干物をメインに、余っている食材で朝ごはんにした。朝日が差し込むゲストハウスでの、ゆっくり味わいながらの朝の時間は、冬の空気と相まって、とても清々しかった。
実はこの旅に、一緒に来る予定だった友人がもう1人いた。帰り際、「次は3人で来ます」と後藤さんに伝え、ゲストハウスをあとにした。
翌月、3人の予定が合うタイミングを見つけて、再び早春の屋形島1泊2日の旅へ。
例のごとく、「ごはんは何にする?」と、アクアパッツァとかいいね、パエリアもいいね、朝は魚の干物を食べようか…とわくわく話しながら、メニューを決めた。
当日は、食材調達のためにお店を4軒ほどはしごして、時間ぎりぎりにバタバタ乗船。1泊2日、美味しく楽しく過ごすためのあれこれを携えて島へ。
ゲストハウスに到着し、お裾分けでいただいた緋扇貝のあぶりと、道の駅かまえで買ったおすしなどお昼ごはんを食べ、コーヒーを淹れて飲んだり、島を散策したり、のんびり過ごした。
日が暮れ始めたころ、いそいそと夕食の準備を開始。今回のメインは、緋扇貝のパエリア。パエリアは、ゲストハウスの後藤さんからの提案だった。「パエリア米があるんだけど、どうかな?自分もやってみて覚えたくて!」とすすめてくれたため、これもまたパエリア米から作るのは初めてだったけど、カラフルな緋扇貝のパエリアを見てみたくなったので、やってみることに。
4人でキッチンに立ち、「パエリア、これで合ってる?」と言いつつ、早々とでき上がった料理をつまみにビールを飲みつつ、手分けして料理。こういう時間が、何より楽しい。
初挑戦のパエリアは、水の加減がうまくいかなかったのか、少々柔らかく、パエリアとリゾットの間のような仕上がりになってしまったが、サフランが香り、緋扇貝のうまみたっぷりで、美味しくでき上がった。それに、新じゃがといちごのサラダ、コーンクリームスープ、そして、港近くの酒屋さんリカーマート塩月でパエリアに合うものをとすすめてもらったワインと。
ごはんを囲みながら、ゆっくりと流れる時間。この時間が、たまらなく好きだ。
朝は、空腹とともに目覚め、先に起きていた友人におはようを言い、続いておなかすいた…と言うと、「いちご食べる?」と言ってくれたので、お言葉に甘えて、3つほどぱくっといただいた。甘酸っぱさに、目が覚めた。
朝食は、友人が持ってきてくれた魚の干物をメインに、前の日の余り食材でサラダとスープを作った。しっかり食べて、食後のコーヒーを淹れて、ゆっくりしていたら…いつの間にか、友人2人が洗い物を片付けてくれていた。実は前の日の夜もそうだった。片付け上手で、気配り上手な2人に、感謝。
かけあわせで生まれる、色々なものを知った、屋形島ごはん。さあ、次はいつ行けるかな…そして今度は何を、作って食べようかな。
written by 佐郷仁美(https://www.instagram.com/daidai_syokutaku/):ふだんは管理栄養士として働きながら、料理イベントの企画・運営など「橙」として活動中。写真が趣味で、イベントなどでカメラマンをすることも。