タイトルが示す、「覚悟」のアルバム
11月11日、大分県佐伯市を拠点に活動を続けるサイキシミンの2ndアルバム『人間』が発売された。「ライブハウスもない」と冠を付けざるを得ない九州の過疎地域で熟成された大谷の曲は、1stアルバム『シビン』を経て大きな転換期を迎えた。
もともとメンバー間だけで展開されていた楽曲制作は、コロナ禍にあって更にその密度を高めたという。4人だけの結界が強く張り巡らされたが、その耳障りは意外にも風通しが良い。「人間」というタイトルからも分かるように、比較的ヘビーなコンセプトがアルバム全体を覆っているにも関わらず、だ。その理由は、nord electroの導入だったり、前作から飛躍的に向上した山岡のハーモニカ・スキル、と言った音楽的要素だけでは決してない。
まず、一曲目が胎内のBPMを想起させる『妊娠』ということからも、このアルバムのテーマが「生」であることが分かる。前半は、友人宅での仏間ライブから生まれたダンスナンバー『仏壇のダンスホール』や、アル中でもある山岡が作詞した『ローリング土手』と直球の人間賛歌が続き、表題曲『人間』へと雪崩れ込む。以降、『鮮やかなスピード』『イメージ』など、バンドの新境地を切り開く楽曲が並ぶも、全編を通して「生」への眼差しは貫かれ、そして『バカの歌』で一つの焦点を結ぶ。
「時々は死にたくなるけれど 魂はここで燃えているのさ」ーーーそれは、加速度的なスピードで底が抜け続ける世界を嘆くのではなく、どんなに小さくても光を発し続ける、という覚悟の表出だ。重く、先の見えない世の中で、それでも紡いでいかなければならない命がある。「ロックンロール」という言葉が死語になりつつある2021年に、ライブハウスもない街から生まれた、傑作と言って差し支えのない一世一代のアルバムは、このフレーズで締められる。
発売日に公開されたTMOVEによるティーザー映像もまた、覚悟の作品になっている。「生」について表現することは、自身の生き方を示すことであり、その行為には「覚悟」が付随してくる。このアルバムから派生して作られたティーザー映像のように、『人間』を手にしたリスナーも同様に何かを感じて覚悟するのではないか。そういう強度を持ったアルバムだ。
そして来たる12月某日、PV撮影とリリースパーティが予定されているという。新たなステージへと歩みを進めたサイキシミンの今後を期待したい。
サイキシミン2ndアルバム
「人間」
Track List
1 妊娠
2 やさしさ
3 仏壇のダンスホール
4 ポックンロール
5 ローリング土手
6 人間
7 鮮やかなスピード
8 考えろ
9 イメージ
10 PA、マイクについてのお願い
11 バカの歌
サイキシミンの通販ページから購入できるほか、coffee5とニューメキシコでも取り扱い中。
購入ページ:https://saikishimin.thebase.in/items