『DEEP SAIKI #05 ホビーショップキムラ』完成記念インタビュー

佐伯市の最深部にスポットを当てたドキュメンタリーシリーズ『DEEP SAIKI』が1年半振りに新作を更新した。対象は「ホビーショップキムラ」、まさに知る人ぞ知る佐伯市のディープスポットである。と同時に、あまりに知る必要のないテーマでもある。なぜこんなにも需要のない題材を取り上げるのか?制作を務めるTMOVEの工藤智之にその真意を聞いた。

「木村勇気三部作」という一つの物語

  • まずは「DEEP SAIKI」という企画からお聞かせ下さい。どういった経緯で制作に至ったのでしょうか?

まず2年くらい前に佐伯市で地域のPR映像制作という仕事を始めたんですが、しばらくして、仕事とは別に好き勝手に作ってみようと思い立ちました。いわゆる自主制作ですね。そこで、大入島のトンド火祭りのドキュメンタリーを制作しました。映像的に魅力のある題材だと思ったし、広く周知されてる訳でもなかった。良いテーマだと思いました。それが始まりでした。

  • なるほど。でも、大入島のトンド火祭りは理解できるんですよ。廃れゆく地域の祭事を映像作品として残すことは、歴史的資料としても価値があると思います。ただ、その次の回が「木村勇気」でした。普通ならどう転んでも取り上げませんよね。

でも、キムラさんみたいな人じゃないと撮れない映像ってあるんです。これは誇張でも冗談でもなくて、あの人は本当にダメなので、普通なら隠したりするような恥ずかしいところも見せてくれる。そもそものプライドとか、そういうのが無いんですよ。つまり、人間の本質的な核の部分に接近できる気がするんです。ダメな人って純粋だったりするじゃないですか。

  • そんなにダメなんですか?

ダメだと思いますね。これは僕の経験から思ってることですけど、カメラを回すと普通の人は少なからず格好付けたり、身構えたりする。当たり前ですよね。でも、ダメな人って不思議と自然体でいれるんですよ。カメラとの間がゼロ距離なんです。ドキュメンタリーを撮る上で、こんなに都合の良い被写体はないと思いますね。

  • 被写体として利用してる、ということですか?

そう言い換えることもできるかもしれません。ただ、僕とキムラさんのコミュニケーションでもあります。撮影を通してお互いを理解し合ってる感覚はありますね。

  • 編集に関してはどうですか?ストーリーは単純ですが、編集によって、かなり特異な構成になってると思います。

最初に、キムラさんを被写体にクールな映像に仕上げればウケるだろう、という打算がありました。例えば、同じ手法でスポーツ選手を取材してもこうはならない。格好良い人を格好良く撮っても、映像とのギャップが生まれないんです。

  • そういうことですね。約一年のブランクを経て、今回再び木村さんを題材にした理由などお聞かせください。

実は「DEEP SAIKI #02」と「DEEP SAIKI #05」の間に、キムラさんはクラファンを利用してゲームショップを始めたんですが、そのクラファンを応援する動画を作ってるんですよ。だから、流れで見てもらうと分かるんですけど、一年半前と今とでは、キムラさんを取り巻く環境は大きく変わってます。それを映像に残したいと思ったんです。

2年前の木村勇気

  • 環境は変わっても中身は簡単には変わらない、というのが三作品を見た上での感想です。

そうなんです。良し悪しではなくて、そういう人なんですよ。

  • 『DEEP SAIKI #05』では、やはり女の子と遊ぶシーンが象徴的です。どういった意図がありますか?

撮影に関しては半ば偶然ではあるんですけど、彼女の存在は大きいですね。最初は僕と木村さんだけで海に行く予定だったんです。その前日にたまたま3人で話す機会があって、「じゃあ私も行く」となった。あのキャラクターで木村さんとフラットに対話できるのは凄いです。結果、全編を通じてもっとも重要なシーンになりました。彼女のシーン以外は見なくても良いくらいですね。

  • 冴えないオタクが美女とデートする、という構成に、例えば『ナポレオン・ダイナマイト』のような、いわゆるナードムービーの影響を少なからず感じたのですが。

無関係ではないかもしれないです。でも、そう言われて真っ先に思い付くのはギヨーム・ブラックの『女っ気なし』ですね。初めて見たときは余りの面白さにびっくりしたのですが、途中から主役のシルヴァンがキムラさん見えてしょうがなかったのを覚えてます。

  • 確かにギヨーム・ブラックのオフビートな演出と、木村さんの朴訥というかある種の無感情さは通じるものがありますね。何を考えてるのか分からない可笑しさを感じました。

ある種の無感情だし、何を考えてるのか分からないんですけど、それがつまり「カメラの前でも自然体でいられる能力」なのかもしれません。

  • それにしても2年前は年末に一人で将来を嘆いていた木村さんが、クラファンを利用して自分のお店を持ち、お客さんと楽しそうに年越ししている。そういう部分では感動的ですらあります。

まず面白い仲間が周りに多くいる、というのはありますよね。クラファンにしてもそうですけど、キムラさんと関わってもメリットなんて何もないんです。むしろデメリットしかない。ダメな人だから。仮に東京だったら死んでると思うんですよ。それでも、ここには手を差し伸べてくれる人がいて良かったなあと思います。

1年前の木村勇気

  • クラファンの動画でいえば、周囲の友人たちが辛辣な意見を口にするのがショックでした。誰も手放しで賛同してない。あんなクラファンは見たことがなかったです。

もちろん資金調達の為の動画ですけど、嘘は付きたくなかった。それでも応援したい人が投資すれば良いと思ったんです。このクラファンには、公共の福祉みたいな側面があると思ってて、キムラさんのお店が上手くいくとか、そういうことよりも、この町に住んでる人たちが少しでも豊かになったら良い。少なくとも、キムラさんと、その周りのゲーム好きの人にとっては大事な居場所になってますから。やっぱり、人を惹きつける魅力みたいなものがある人ですよね。

  • 「DEEP SAIKI #05」は、衝撃的なラストを迎えます。

お店を持って、キムラさん自身もようやく変わりつつある。2年前に撮った「DEEP SAIKI #02」のラストがこれだったら救いがないですけど、今はそうじゃない。自分の生活の豊さに気付いてほしいな、という願いを込めてああいうラストにしました。もっと自分の意識次第で楽しくなるはずだし、幸せになれると思うから。

  • 最後に、TMOVEとしての予定などあれば教えてください。

正直、もう嫌気が差すほど飽きてるんですけど、作り続けないと先がないので頑張ります。僕もキムラさんも、生きるのに必死です。きっと他のみんなもそうだと思う。キムラさんのビデオを通じて伝えたかったのは「どんなにダメな奴でも、それなりに必死に生きている」ということなのかもしれないです。

TMOVE : 2年半前に創業した、大分県佐伯市を拠点に活動する工藤智之の映像制作事務所。ドキュメンタリーを多く手がけるが、劇映画やMusic Video、企業CMなどジャンルを問わず制作している。

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