A DAY IN THE SAIKI – 第一回「ベトナムの夜」

地域に密着した映像制作を生業にする工藤智之の日常ドキュメント・シリーズ

5/15、外国人技能実習たちがバーを兼ねてる僕の事務所を訪れてくれて、夜通し喋った。首謀者はさんかくワサビのオーナー、中村香純とやまうちサイクルに務める金井シュート。この二人に声をかけられる形で、地域おこし協力隊のブイ・ホン・ロワンが仲間を集めた。実習生の名前はカインとヒエン。予想通りに笑顔が印象的な好青年だったけど、予想に反して真面目過ぎるくらい真面目だった。ロアンは「せっかくだから日本の文化に興味のある友達を連れてきました」と言う。なるほど、お互いに打ち解けるまで全く時間は掛からなかった。中村とシュートが考えるのは、こんな空間を意図的に作り上げることだ。

佐伯市に限らず、外国人技能実習生の労働力は地域にとって不可欠なものになって久しい。が、週六で働いて収入のほとんどを仕送りに充てる彼らと、地域住民がフラットな関係で付き合える場は限りなく少ない。というか、皆無と言って良いだろう。地域の催しにブースを作って彼らが異国料理を振る舞う、のではなく、もっと親密でくだけた空間を作ることで、今までになかった関係性を築くことができるのではないか。二人が考えるのはそういう趣旨の企画だが、そんなことよりも「あいつら面白そうだから仲良くなりたい」という動機が先立つ。

〈面白そうだから〉その一言ですべてが進む。僕たちがやることに、それ以外の理由はない。映画館もクラブも美術館も古着屋もないこの町では、自分らで事を起こすしか退屈に勝つ方法がないのだ。そして、その現実は必然的に都会のそれよりも少しだけクレバーになる。こういう遊びには、実感を伴った「喜び」や「痛み」が付随してくるから。

気付いたらテキーラとイエガーの瓶が空いていた。スピーカーからはタイのかベトナムのかよく分からないけど、フォークと歌謡曲が入り混じったような青春哀歌が流れている。ヒエンが「来週は私たちの家に来てほしいです」と言ってきた。酩酊したシュートが「いいの?」と反応し、「楽しみですね」とロワンが返す。そのやりとりを見た中村が「シュート、よかったね」と小馬鹿にした感じで笑い、釣られるようにしてヒエンも笑った。

こうして彼らを主体とした“アジアンフェスみたいなもの”の原型が出来上がった。開催は7月か8月になりそう。とりあえず、来週は彼らのアジトに乗り込んでご馳走になる。『夏至』を見返したくなった。

written by 工藤智之(https://www.facebook.com/profile.php?id=100041482571978):京都造形芸術大学を卒業した後、東京で多くの映像制作に関わる。2019年の春に帰郷し、映像制作事務所TMOVEを設立。事務所内のカウンターバー「ニューメキシコ」の企画運営や、ローカルメディア「GOOD MOOD VOID」の立ち上げなど、映像制作を軸にしながらもその活動は多岐にわたる

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