牡蠣養殖と聞いて大分県佐伯市を思い浮かべる人はよほどのカキフリーク。一般的な認知度で言えば「宮城」「広島」が一大産地であり、佐伯市が「牡蠣のメッカですよ」と言われてもにわかには信じがたい。それでも一部の猛烈な牡蠣マニアたちがここ数年、佐伯に足しげく通う。牡蠣の一大産地として急成長を遂げるその背景には市街地から数キロ離れた離島での取り組みが関係していた。
ここは大分県佐伯市大入島。九州の最東端に位置する佐伯市の市街地から数キロ離れた場所に浮かぶ離島。対岸には佐伯市が誇る造船所が複数確認でき、上浦エリアや海崎エリアといった日本有数のリアス式海岸を望むことができる。番匠川水系の豊饒な恵みをど真ん中で受け止める佐伯湾に位置し、国内でも有数の漁場として漁業関係者の中での評価も高い。
大入島の一大産業はご想像の通り「漁業」であるが、ここ最近の人口減少、少子高齢化の波によって漁を辞める漁師が後を絶たない。全国の離島が抱える人口減少問題はやはりこの島にも猛威をふるい、島の人口は年間50人以上のペースで減少し、空き家の増加、行政サービスの破綻とまさに限界集落の様相を呈している。漁場は荒れ、獲られるべき海藻や貝類が放置されている湾が散見される。
そうした現状を憂う島の漁師、合同会社新栄丸の宮本新一代表。
九州の中でもほぼ誰も知らないこの島に、最近、全国から多くの人が視察に訪れているのは、宮本氏の行っている養殖方法を一目見てみたいという衝動に駆られてのこと。その衝動は遠くは韓国やロシア、香港などにも伝播し、国内外を問わず視察オファーが届いている。
宮本氏が人生の紆余曲折を経てたどり着いたこの仕組みは、養殖業界を震撼させる「革命」と言うべき取り組みで、限界集落の離島を世界的に有名な場所に変え得る可能性を秘めている。「生まれ育った島で死ぬまで漁師をしたいんよ」「漁師の仕事が好きなんよね」と淡々と語る宮本氏の瞳の奥には未来を見据える力強い光を見ることができる。
宮本氏が革命を起こしたのは、「牡蠣養殖」における生産方法。牡蠣養殖と言えば宮城県や広島県が国内最大級の生産地であり、知名度も生産量も随一。「牡蠣養殖」と言ってもいくつかの方法があり、旧来型の垂下式やシングルシード式に始まり干潟の干満を利用した生産方法や洋上の波力を利用した生産方法まで多岐にわたり、宮城や広島で行われている牡蠣養殖のほとんどは、垂下式と呼ばれる旧来型の伝統的なもの。
多くの方が想像する牡蠣養殖のイメージのはこの写真のようなスタイル(垂下式)ではないだろうか。こうした旧来型の牡蠣養殖と一線を画す世界最先端の養殖方法とはいったいどんなものなのだろうか。
全国の熱狂的な牡蠣フリークたちが熱視線を集める人口600人の小さな島にオイスタージャーニーを求めて潜入してみたい。