新しいイベントのかたち
2021年「ベトナムの日」、2022年「国際夜市」に連なる国際交流イベント「東アジア諸国のお祭り」が2023年2月に旧大手前公園で開催された。ブイ・ホン・ロアンと中村香純が主となり実行したこの催しは、前二回のそれとは大きく異なる点があった。今までは自主開催だったのに対し、今回は正式な補助金を活用して行われたのだ。潤沢な予算はあるものの、市の意向を汲み、複雑化した関係者各位に理解を仰ぎながら企画運営しなければならない。それは、二人にとって初めての試みだった。
彼女らが目指す「国際交流」とは、普段の生活では交わることのない異国出身の他者と「友達になる」ことである。その想いに政治や経済が介入する余地はない。しかし、オフィシャルな公金を使ってイベントを実施することは、様々な制約を受け入れることでもある。ある種の無法地帯を演出することで非日常的な空間を作り上げることに長けた二人には、大きな足枷となった。
あらゆる制約の中で、自分たちらしさを維持するために、彼女たちは画期的な予算組みを企てる。通常ならボランティア・スタッフや運営側として関わる全ての参加者に、報酬を割り当てたのだ。飲食の提供をするチームにはその食材費や準備費を支給し、売上も100パーセント還元することで、赤字が出ることのない仕組みを取り入れた。ステージパフォーマンスを担ったチームや、会場設営のお手伝いにも報酬が支払われたことは特筆すべきだろう。
会場のテント設営はアウトドアガイドの工藤克史が担って、音響設備はロックバンドのサイキシミンが、司会進行をヨシカワラジオと藤田一徹(ex.トリテン)が行うなど、中村のDIY精神に基づく人選によって最小限に抑えられた必要経費のおかげで、あらゆる参加者にその労働費を還元することができたのだ。
この実験的な試みは、今後の補助金イベントを大きく変える可能性を秘めているかもしれない。例えば、ドリンクを担当したニューメキシコは、自店を貸し出しに提供したレンタル代を酒代にして、ハイボールを無料で振る舞うことができたという。
「基本的には外国人労働者の人たちに楽しんでもらうイベントだと思ったんですが、そもそも彼らがイベントで何杯もお酒を飲む経済的余裕があるとは思えなかった。だから、外国人は無料で日本人には一杯500円で提供しました。主催側の心意気を感じたので、思い切って無料にしてみた、という感じですね。そしたら想定してた以上にみんな飲むから、やっぱり好きなんだなあ、と思った」とニューメキシコの工藤は笑う。
イベント後、二人は「難しかった」と反省の弁を並べるが、次回開催を望む声は多い。それは、集客や収益だけでは計れない彼女らの精神性に対する評価でもある。
Photo by Tatsuya Ono
ブイ・ホン・ロアン:1989年、ベトナム北部ニンビン省出身。2021年より佐伯市地域おこし協力隊に着任。あらゆる業務に携わる。その優秀さは佐伯市という狭い街では測りきれない。盟友・中村とのまったく噛み合ってないけどなぜか通じ合っている会話から生まれるイベントは、独特なユルさに満ちており、どう転んでもハッピーエンドを迎えることができる安心感がある。