建築家・宮城雅子が抱くcoffee5への想い

大分県佐伯市にあるネル・ドリップ専門珈琲店「coffee5」は、オープンから五年余りを経て、この街を代表する喫茶店の一つに成長した。自家焙煎した深煎り豆をネル生地でドリップする珈琲の味はもちろん、不思議と人が集まる引力を持った場所でもある。そこには、他とは違う「空間としての魅力」がある。この空間をデザインした建築家・宮城雅子の言葉は、なぜ私たちがCoffee5に惹かれるのか?という問いに、ちょっとした気付きを与えてくれるかもしれない。

coffee5との出会いと、これから先のこと

coffee5 さんとの出逢いは、真っ青な空に、稲が力強く向かう一枚の田圃の写真でした。

『佐伯の田圃の中にネルドリップ珈琲の喫茶店を開きたいと考えておりまして、
ちょうどいい温度のお話、一度お会いしたいです。』と文章がついていました。

『ちょうどいい温度』とは、
オーナーさんの人柄や、ご提供なさる商品、集って下さるひとたち、
空間デザインなど、様々な要素が組み合わさって出来上がって行く、

空間の平熱のようなもので、多くのひとが心地良いと感じる温度のこと。

空間づくりに、とても大切と思っています。
それに共感をして下さった、オーナー内田さん。

はじめましてのその日から、お互いを伝え合い、
1年3ヶ月、共に、coffee5 づくりを組み立てて行きました。

お店奥には小高い森林が広がる

揺るぎない芯、熱き想いがあるのに、
誰に対しても何に対しても広く、シンプルな生き様の内田さん。平熱よりちょっと高め。

焙煎室で、たくさんの豆の中から選ばれた豆たちは、誇らしく思っているように見え、
『絶対にいい感じに仕上げるから』という内田さんの気持ちを感じ取っているようにも見えて、
ここは、内田さんと珈琲豆たちだけの世界。

静寂なんだけど、内田さんだけにしか聞こえない珈琲豆の妖精が
色んなことを話をしているような空気感。見えない活気があって、平熱よりかなり高め。

いよいよ焙煎室から出てデビューをする豆たち。
内田さん独特の一定のリズムでドリップが行われ、一杯の珈琲に仕上がって行く。

その豆を植えたひと、育てたひと、収穫してくれたひと、運んでくれたひと。
その情景を、きちんと思い浮かべることが出来るひとが淹れた珈琲。 

ネルから落ちる一滴の力強さ。この一滴には多くのひとの想いが入ってる。 微熱強。

内田さんが想像する集って下さるひとたちの温度、
時に平熱、時に微熱、時にインフルエンザ級。

coffee5 の空間デザインがシンプルなのは、そんなたくさんの熱量を整えるためなのです。

時間帯によって表情を変える店内

とは言え、
coffee5 の心地よさは、空間の持つ平熱さだけではありません。
それは、雨風をしのぐ、ほんの一部のご協力。

年齢関係なく沢山のひとが集ってくれるのは、美味しいはもちろん、

内田さんの持つ、ピアノの旋律のような空気感、
共にカウンターに立つ奥さんとスタッフさんの声のトーンや会話のタイミング、

いつの日もキラキラ輝いているお母さんが活ける小さな季節の花々、

たくさんのお客様がいらした時、
実はバックヤードで洗い物をしている、
coffee5 の看板やお庭の柵をつくってくれた器用なお父さんの愛。

内田家全員で coffee5 を育て、愛する気持ちが、心地よさを生むのだと思います。

そこに、ココを見つけ、通ってくれるお客さんたちの色んなパワーが入り続け、
OPENから5年半経ち、coffee5 しかない空気感がどんどん出来上がってくれています。

ひとの力って、本当にすごいな。

一杯ずつ丁寧にネルドリップしていく

お正月に伺ったとき、毎年来てくれるという、大きな家族にお逢いしました。

小学生、中学生、ご両親、おじいちゃん、おばあちゃん。
みんな伸び伸びしていて、自分の好きなものをオーダーして。

coffee5 は、いつもと変わらず、良い旋律で。

いや、もしかしたら、その時間に合わせて本能的に旋律に強弱をつける才能を
内田さんは持っているのかもしれません。ギター弾くし。

内田さんが珈琲を始めたきっかけは、
小さな頃、お父さんに着いて佐伯ランブルさんに何度も通ったこと。

マスターの所作やお店の雰囲気に魅力を感じ、今に居る。

お正月に来てくれるあの子も、
もしかしたら、20年後、珈琲を淹れているかも。

文化というのは、伝えて行くことだけではなく、
誰かが、勝手に誰かの今を見て、紡がれて行くのかもしれない。

いつの日か、coffee5 のあの大きなカウンターに被りつきで
内田さんの所作を見つめるこどもに逢いたいものだ。

きっと、内田さんは、佐伯や銀座のランブルさんがして下さったように、
たくさんのことを繋いで行くことと思います。

coffee5 は、沢山の出逢いや想いを繋いで行く場所、そこに喫茶がある、そんなお店です。

written by 宮城雅子:山口県下関生まれ。岩橋弘幸建築設計事務所勤務後、2003年10月14日に宮城雅子建築設計事務所設立。住宅、店舗、オフィス等、ジャンルを問わず、また新築、リノベーション、改装問わず、設計デザイン・監理、プロデュース業務、パッケージデザイン、インテリアデザイン、グラッフィックデザインなど幅広く手掛ける。

coffee 5 :instagram(https://www.instagram.com/_coffee5/?hl=ja

宮城雅子建築設計事務所:HP(http://www.miyagimasako.com

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