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河瀬直美監督『玄牝』の自主上映を敢行した「第七藝術まつり」とは?その活動を振り返る

この町で『玄牝』を上映する、ということの困難さ

河瀬直美の輝かしい経歴は今更説明するまでもないと思うが、映画館のない大分県佐伯市で『玄牝』の自主上映をするにあたっては、多少なりとも解説が必要になるだろう。決して文化的水準が高いとは言えないこの町では、ただ価値のある映画を上映すれば観客が来るものでもないし、ましてや河瀬直美監督作品である。中でも自然分娩を題材にしたドキュメンタリー映画『玄牝』は、欧州を中心に賛否の議論が巻き起こった、いわば問題作だ。手放しで歓迎される映画ではない。

上映館の一つになった「投げ銭ゲストハウス さんかくワサビ」のロビー壁

2日間で計6回に渡る『玄牝』の連続上映を企画した岡嶋悠は、抗議や批判は覚悟の上だったという。それでも「この映画に触れて、何かを感じることは(例えそれが抗議や批判の類だったとしても)ネガティブなことではないと思う」と語った。

この町には映画館がないので、会場は市営の文化ホールと、運営メンバーでもある中村と増村がそれぞれ営むゲストハウスとカフェになった。映画館としては心許ない設備ではあるが、それでも立派なミニシアターに仕立て上げた。約半年間、月に一度の打ち合わせを重ねて、SNSアカウントを作り、チラシを刷って、何度も『玄牝』について話し合った。結果、100名以上の来場者を迎えたことは、喜びと驚きをもって関係者に伝えられたという。配給元に報告書を提出した際に、『玄牝』の自主上映としては過去最高の動員数だと教えられた。

上映館の一つ「cafe koyomi」にて

普段は美容室を営む岡嶋の一声で組織された「第七藝術まつり」のメンバーは、公務員や飲食店の経営者、育休中の主婦など、岡嶋の友人たちばかりだ。素人チームの「この映画を多くの人と共有したい」というシンプルながら本質的な動機によって、本来なら観るはずもなかった100名余りの佐伯市民が『玄牝』を鑑賞したことになる。

岡嶋の営む美容室「月虹」

この第七藝術まつりの企画には、「地域おこし」という大義名分もなければ「クリエイティブな文化活動」といった志もない。ただ、純粋な映画体験をこの町で実現しただけである。が、こうした純度の高い活動こそが文化として根付いていく可能性を孕むだろう。「地方では触れることの困難な、良質な映画を多くの人と共有する」ことをコンセプトに、今後も不定期ながら継続していく予定だという。

第七藝術まつり(https://www.instagram.com/dai7geijutsu_matsuri/):美容室「月虹」を経営する岡嶋悠によって組織された映画上映の企画運営チーム。全員が素人ながらも半年の準備期間を経て開催された第一回『玄牝』は内実ともに成功を収めた。

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